Magazine       Chow Sing Chi

『第7回ゆうばり国際冒険ファンタスティック映画祭'96』
に出席するため来日した周星馳に対する香港電影通信の中のインタビューです


1996年、日本に於いてまだそれほど有名じゃないという時期のインタビューということで、『少林サッカー』が爆発的にヒットした現在とは少々ズレがあるのも興味深いです。
   
ゆうばり1




その日、東京は大雪になり羽田空港では遅延、欠航便が続出。果たしてチャウ・シンチー、漢字で書いたら周星馳はやってくるのか?いや、前日まで来日スケジュールが二転三転していたので、日本に着いているかどうかさえ定かでない。気が気でない。結局、チャウ・シンチーが新千歳空港に着いたのは予定より3時間ほど遅れての事。ぐったりと疲れた様子だ。
オフシアター・コンペティション部門の審査員をして頂き、更に『西遊記』の舞台挨拶、キャンペーンもあるタイトなスケジュールのうえに到着の遅れもあって、インタビュー時間がだいぶ短くなってしまったのは残念。


-----今回は8ミリ、16ミリといった、将来プロを目指そうとするオフシアターの人たちの作品を見てもらうわけですが、香港でも自主映画は盛んですか?
周: それは一生懸命見なければいけませんね。香港ではアマチュアの8ミリなんかはあまりないのですが、商業的ではなくても、インディペンデントの映画でいいものはあると思います。
-----シンチーさん自身も1本『0061北京より愛を込めて!?』を(共同)監督されていますよね。
周: 1本目です。今後も監督する予定はあります。実は今、香港で上映している《大内密探零零發》(監督:谷徳昭)もだいぶ演出にかかわっています。これは、007の時代劇版パロディで008(笑)。”發”は中国語で豊かになるという意味があるので、正月映画にはもってこいの題名です。
-----やはり自分で監督したい、という強い希望が?
周: というか、映画全体の仕事に興味があるんです。演技するだけでなく、演出にも脚本にも、色々な試みをしてみたいという欲望が強いから、つい口を出してしまう。口出しを認めてくれている現場のスタッフに感謝しています。
将来的には単独監督ということもあるかもしれないけど。ただ、僕は同時に主演もするわけだから、全くの単独監督より、誰かに見てもらっていた方が安心出来るね。そうえいばアクション監督もやったことあるな(笑)。『0061〜』は見てくれましたか?
-----もちろん!映画的センスというか、演出センスが溢れていて、正直、俳優だけの作品よりも感心しました。
周: どうもありがとう。そちらに座っている李力持監督にすごく協力してもらった。ナイフ投げのシーンがあったでしょう?あそこは僕のアイデアでやりました。とても気に入ってる。猪肉刀とかナイフ投げとか、笑えたでしょう?  
-----ええ、最高!(笑)やっぱりコメディ路線がやりたいんですか?
周: 重いシリアスなものよりは、軽い感じのものを作りたいと思っています。そうするとどうしてもコメディになってしまう。
-----でも、見てませんが昨年の《回魂夜》はホラーなんでしょ。ジェフ・ラウが監督し、あなたがイカレた『レオン』のジャン・レノをやってるという・・・。
周: それでもコメディです。悪霊の話が入っていて、ちょっと陰気なものになっているけど、ブラック・ユーモアですよ。コメディだって色々なタイプのものをやりたいと思っています。ナンセンスなキレているのはもちろん、泣かせたり感動させるコメディまで。なかなか実現させるのは難しいですけどね。
-----今年の夕張はスティーブ・マーティンも来ているし、西のスティーブ東のチャウ、東西キング・オブ・コメディの揃い踏みですね。洋モノのコメディも好きですか?
周: スティーブ・マーティンはすごくいいコメディアンですけど、僕はまだまだそんなレベルにいってませんよ(笑)むこうのコメディもよく見ますが、あまり気にしません。特に気に入っているものもないなぁ。でもトム・ハンクスは格別です。彼はシリアスとコメディを共存できる、すごい演技力ですよ。『フォレスト・ガンプ』を見て感動しました。やはりギャグは味付けで、重要なのは脚本ですね。
-----いやぁ トム・ハンクスよりチャウ・シンチー映画の方がずっとすごいと思うけどなぁ。
周: ホントですか!? トム・ハンクスと共演したいというのが僕の夢です。一生かなわないだろうけど・・・・・・。
-----でも、チョウ・ユンファがハリウッドへ行けて、チャウ・シンチーが行けぬはずがない!!
周: (笑)ユンファは背が高いから。僕は低い。たぶんハリウッドへ行っても女優はみんな僕より背が高いから、共演なんかしてくれないよ(笑)
-----それはないでしょうが、やはり海外進出は意識しますか?
周: 僕自身が海外の作品に出るとかではなく、僕の作品をもっと海外に出したいとは強く思っています。今までは香港、台湾など狭いマーケットだった。今回の『西遊記』も、そのために中国や日本、その他の国でも知られている題材を選んだのです。もっとも、古典のストーリーを大きく変えているので驚いた人も多いでしょうが(笑)。原典をそのままやると、天上から海中までスケールが大き過ぎて、とても映画化出来そうもないので、自分なりの”西遊記”にしてみました。パロディというんじゃないけど、新しい試みをしてみたかったんです。
-----話が入り組んでいて、とまどうところもあるけど、勢いで見せきってしまう力強い面白さがあって楽しめますよ。特にパートUの朱茵(アテナ・チュウ)がいい。香港の白都真理(笑)ね。細かな言葉のギャグは伝わらないところもあるけど。
周: そこが難しいところですね。海外の人にも理解してもらえる題材に挑む反面、香港でも深く受け入れられなければならないし。
-----笑いの文化を他国に伝えるのは最も難しい作業ですからね。でも、パートUのラストなんかは、結構ホロリとさせる。孫悟空の特殊メイクをして、目だけの演技で泣かせてくれるのはさすがです。
周: どうもありがとう。そういった試みと笑いを合わせて、いい映画を作って海外の人にも受け入れられるよう努力してゆくことをお約束します。
-----香港でのあなたの人気はすごいのに、日本にはほとんど作品が入って来ない状態ですからね。最近、日本の映画ファンもバカ映画、あ、これは笑える肯定的な映画という意味ですけど、そういう映画を楽しめる下地ができたので、あなたの旧作もウケると思いますよ。
周: 反対にお聞きしたいのですが、どうすれば日本の市場に売れますか?
-----う〜〜ん、それが難しいですよね。『ゴッド・ギャンブラー/賭聖外伝』がようやく4月にビデオでリリースされる位ですから。権利金が高いんじゃないですか(笑)。チャウ・シンチーの人気をもってすれば、手ごろな権利金なら売れると思いますが・・・。
周: ホントですか?
-----私も《逃学威龍》や《新精武門1991》が日本で出ないことを嘆いています。あの・・・・・、チャウさんは張敏(チョン・マン)との共演が多かったですよね。チョン・マンは個人的にどんな人ですか・・・・。
周: すごくいい人ですよ。とてもキレイな人だし。
-----ですよね!《逃学威龍》のマドンナ教師とかいいですよね。そうですか。実は大ファンなんです。
周: (笑)いい趣味してますねぇ。今度、香港に来た時に紹介してあげますよ、フフッ (笑)。
-----是非!! (でもこの含み笑いが気になる・・・・・何かあるのか) 最近のチョン・マンはプロデュースにも進出して頑張っていていいですよね。
周: わかりました。帰ったら伝えておきます(笑)
-----(おいおいホントだな!?)ところで日本のコメディとかは見ていますか?
周: 子供の時に柔道もののテレビやドラマはよく見てました。他にもウルトラマンや日本のアニメには相当影響を受けています。特に《破壊之王》にはそれが出ている。石段を転がり落ちるシーンとかね。
-----それは「柔道一直線」あたりがモトネタかな。
周: 李力持監督も日本のマンガや映画が大好きですからね。それを自分の映画に活かすようにしてます。
-----香港で大ヒットした《搶銭家族》(『木村家の人びと』)は見ましたか?
周: 見たいと思っていたのですが、見逃してしまいました。これは見ましたよ(と、《五個相撲的少年》と書いた)
-----ああ『シコふんじゃった』ですね。
周: コメディとして最高の映画です。素晴らしい映画で、香港でも高く評価されています。最後の方で、太った女の子が男のために土俵に登るじゃないですか。僕はあのシーンで泣いてしまった。この映画は本当に面白くて、自分の映画なんか比べものにならない位いい作品です。
-----またまたご謙遜を。チャウさん、太めの女の子が趣味なんじゃないですか(笑)
周: (笑)かもね。いや、女は見かけじゃない、心です。
あの映画は言葉がわからなくても、俳優の表情を見てるだけで大笑い出来るんです。僕らが見習うべきところは沢山ある。この位のレベルの作品を撮れるようになりたいなあ。
-----《五個相撲的少年》も《搶銭家族》も日本の優秀な若手監督の作品だけど、数ある日本映画の中でも文化の違いを越えてコメディがウケているってことは、その逆もありうるんじゃないですか。笑いの文化は伝わりにくいけど、一旦受け入れられると、笑いという感情はダイレクトに響くから、チャウ・シンチー映画にも大きな可能性がありますよ。是非、日本狙いのものを作って欲しい。
周: 今、アクションもののコメディを撮りたいと考えているんですけど、どう思いますか?  
-----いいですねぇ。あっ相撲アクションがいいですよ。チャウさん、もっと太りまくって(笑)
周: (笑)やだなぁ。  
-----《回魂夜》では5キロ位ダイエットしたと聞きましたよ。
周: まあ、それ位なら(笑)
星馳自筆-----これまでの自分の作品で、特におススメの作品、自信作をあげてもらえますか?
(「書きましょう」と、映画祭のカタログに書き出したのが『0061北京より愛を込めて!?』『西遊記』《武状元蘇乞兒》) この辺がベスト3?
周: 他にも気に入ってるのはあるけどーー(と、《審死官》と書く)
これはアドリブが多いから、香港ではOKだけど、外国ではどうかなぁ。ああ、これも忘れちゃいけないね(笑)。(と《逃学威龍》と書く)
-----張敏、張敏、チョン・マン(笑)
周: もう出演作が多過ぎて、昔のは忘れちゃったから、今のところはこれぐらいかな。あと、最新作の《大内密探零零發》これ星2つ(笑)
-----《大内密探〜》はチャウ・シンチー映画の脚本を多く手掛けた谷徳昭の監督2作目ぐらいですよね。
周: そうです。彼や李力持との仕事は気心も知れてて、スタッフの役割もどこからどこまでという明確なものというより、ほとんどが合作のような気分で、僕もポスト・プロダクションにまで係わるので楽しいですよ。
-----早く日本でも見たいです。あとは、在日中国人向けの海賊版ビデオ屋で、だいたい見てるんですけどね。《武状元蘇乞兒》は見てないな。
周: なにっ?! これはチョン・マンが出てますよ。すぐに見るように(笑)
-----しまった(笑)。ところで、あなたの作品は、まずヒット狙いなのですか。それとも、あなたの撮りたいものがヒットしたのですか?
周: もちろん、ベストなのは自分の撮りたいもの、やりたいことをやって、それがピタリと観客の需要を満たすことですけど、しかし世の中そうは上手くいかない(笑)。自分の撮りたいものだけを作って、観客に受け入れられないのは嫌ですね。そういうことはやりたくない。しかし、観客に迎合するのではなく、大事なのは、みんなを”見よう”という気にさせることです。自分のやりたいもので、観客のそういう気持ちを喚起させるものを作っていきたい。それは実に難しいことですけど。
-----決してヒット狙い、ウケ狙いだけで作っているのではない、と。
周: そうです。あまりに商業的な儲けを追求しすぎるのが香港映画の欠点です。やはり観客を大事にして、質の高いものを目指さなければダメです。これからも一生懸命、映画を作りますので、日本のファンの方もどうか見てください。
ゆうばり2そう言って、チャウ・シンチーは休む間もなく『西遊記』の舞台挨拶へと向かった。疲労がたまっているのか性格なのか、映画で見るよりはずっと物静かでおとなしい人である。
さて、この夜、2月18日は旧正月の前夜。ヤング・コンペの審査員で夕張に来ているキン・フー監督の音頭で、チャイニーズ勢や関係者が全員集合。なんと、チャウ・シンチーはキン・フー監督とは初対面だそうで、この大先輩の前で礼儀正しく終始緊張の様子。他には李力持や『フィスト・オブ・レジェンド』に出演した中山忍らも同席。忍ちゃんを紳士的にエスコートするシンチーの好青年ぶりが目についた。現在同棲中(?!)という○△×にもこんなに優しいのか、チャウ・シンチー。
《大内密探零零發》の客の入りはどんな具合だろうか、と香港での封切を気にかけながらも、ホッケとラーメンとビールを堪能して、たまには異国で迎える正月もいいもんだと囁く、ゆうばり国際冒険ファンタスティック映画祭'96でのチャウ・シンチーであった。
 
 

 

*香港電影通信より抜粋しております*